代表ごあいさつ

当研究会は日本で初めての各国移民法の実務研究会としてGVF グローバル・イミグレーション・フォーラムを主催しています。フォーラムでは実際に各国でのビザや永住権の取得の方法について実践的な講義とディスカッションを行っています。

 

趣旨

日本の国籍や永住権をどのような条件で得ることができるかについては、国籍法と入管法という二つの法律によって導かれています。それらは当然に選挙権のある日本国民によって選ばれた立法機関である国会で決定されています。先に日本人となっている者らが、将来の国の構成員や準会員のメンバーシップはどうあるのかを決定する権利があります。新しいメンバーをどのように入れて組織を活性化発展させるか、不適切なメンバーをどう排除するかいうのは、どのような組織にとっても致命的に重要なことです。国家にとっては、経済のみならず、政治、外交、文化など国の成り立ちそのものが、その構成員を決定する法律とその運用にゆだねられていると言っても過言ではないでしょう。憲法が組織の定款であるなら、移民法・国籍法は組織の入会規約・構成員の資格・退会事由を記載した文書ということができます。

今、日本国は、長期の経済的不振の中での世界的な信用不安、米国の一極支配から多極化への政治的流れという荒波の中で、どのような国であるべきか模索しています。ちょうど経済的な低迷がはじまった1990年初頭から改正入管法が施行され、日本に在住する外国人の数は倍増し今では200万人を超えています。しかし自国民人口の比率でいえば、まだ2%にも満たず、南北アメリカ、オセアニア、ヨーッロッパの諸国に比べ、外国人に対して門戸を大きく開いているとは言えない現状が続いています。

私たち行政書士をはじめとする日本の入国管理法手続の実務家は、移民を受け入れるべきだという政治的なスローガンを掲げるのではなく、あくまで国際社会の中の日本国家がどうあるべきかについて、専門家として他の国の移民法と現在の行政についての知識をもって提言すべき立場にあります。私たちは移民を受け入れるべしという主張ではなく、どのような法律と手続きをもって外国人を受け入れるのが現在および将来の日本にとって最も適切であるかという提案をしなければなりません。それが日本の入管法と国籍法実務の専門家としての務めであると思慮します。

他国の成功例だけでなく、外国人を多く受け入れてしまったことによる社会秩序の混乱や、それに続く移民の制限措置なども学ばなければならないでしょう。移民で成り立っている国も、そのときどきの政治経済状況により大きく方針転換を図ることがあるというのは、2001年9月12日に同時多発テロに襲われた自由と人権の国アメリカ合衆国が卑近な例として存在します。国民の支持をえて次々に立法をし、自由よりも安全保障を中心とした外国人政策に転換、入国時の審査を厳しくしたり、すでに在留している外国人の取り締まりを強化したりしていることは、近い歴史としてこの10年来、私たちが同時代体験をしてきたことです。

私たちは、ここで、他の国の移民法と外国人受入れ実務を幅広く長期的体系的に学ぶ機会を構築したいと決心し、イミグレーションロー実務研究会を創設しました。その略称あるいは愛称をイミケンとし、移民(イミン)やイミグレーションに愛着を抱いて頂きたいという願いを込めました。イミグレーションとはけっして入管という狭義の意味ではありません。移民、入国管理局、入植などの意味を包含し、あるいは国境を越えた人のダイナミックな移動をイメージする言葉としてあります。適当な日本語訳がないためそのままイミグレーションローとしました。

イミケンは日本の入管法や国籍法を実務として日常取り扱っている行政書士を主な対象者として他国の入管行政・国籍行政はどのようになっているかについて、法律と申請実務を学ぶことを第一義の目的として発足しました。その目的を遂行するために、定期的な勉強会であるGlobal Immigration Forum (GVF)を主催しています。講師は、外国のビザの申請業務を実際に業務として日常扱っている外国人弁護士や大使館でビザ(査証)審査発給事務をしていた方などです。そのレクチャーと、その後に続く日本文化の一つであるグルメを楽しむ会において各国移民法の実務家との交流が深まり、常に参加者相互のアクティブな情報ネットワークが機能し、いつでもタイムリーに他国の現状を知るツールを各位が手に入れることも重要と考えています。また研究した成果を出版物として発信したり、提言を行ったりとういう社会還元は、活動の延長線上に見えていて、当会の目的として明示しなくとも、すでに生命を与えられたイミケンから近い将来、その時々のメンバーの自発的なエネルギーによって生み出されることは間違いないと確信しています。

日本列島は、古来 地理的に大陸や朝鮮半島から渡航してきた難民や政治亡命者の最後の受け入れ地すなわちラスト・リゾートとしての移民のフロンティアとして太平洋に西の端に超然と浮かんでいました。ユーラシア大陸からの人と文物を受け止めるように位置し、同時に風と海流の関係もあり南からの人の最終目的地ともなっていました。氷河期に歩いて北アメリカから南アメリカに渡った者が多数続いた後は、当時の航海術では太平洋を大量に渡航できず、文字通り日本が最後の約束の地であったと思います。私たちの祖先の多くが夢や希望をもってこの列島の地を踏んだことでしょう。換言すれば今のアメリカ合衆国をはじめとする移民で成り立っている国は、この極東の島国で何十世紀か前に移民が集まってあちこちに集落をつくっていたときの若々しく荒々しい国家の再現だともいえるでしょう。現在の日本は、それらの新しい国のやり方も真摯に学んで、国家の構成員についてもう一度、現在のメンバーたる国民で合意を形成しなおす一大更新時期に来ています。私たちはその重大な時期に自然に発生すべくして生まれた研究会として、これからフォーラムを積み重ね、各国の専門家との交流を深化させるなかで、日本という国家の更新手続きをどのようにしたらよいかについて、いくばくかの理論的な寄与ができることを祈念し、設立にあたっての趣旨の結びとさせていただきます。

2011年9月11日
創設者/共同代表 中井 正人